病気事典[家庭の医学]

おうはんふしゅのちりょう

黄斑浮腫の治療

黄斑浮腫の治療について解説します。

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黄斑浮腫の治療の解説(コラム)

 黄斑浮腫は、視力に最も重要な網膜中心部の黄斑に浮腫(むくみ)を来す状態であり、糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)、網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)などの網膜の循環障害や、ぶどう膜炎、白内障術後などの炎症により生じます。症状としては、視野の中心部に変視症(ゆがみ)が現れます。治療法には大きく分けて手術・レーザーなどの外科的治療と薬物による内科的治療があります。

 まず、外科的治療としては、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症がある場合、蛍光眼底造影検査(けいこうがんていぞうえいけんさ)を行い、血管から造影剤がもれてくる部位を見つけておく必要があります。局所性浮腫と呼ばれ、血管からのもれが限られている場合には光凝固治療が有効です。毛細血管瘤(りゅう)があれば直接凝固し、血管瘤がない場合には造影剤がもれているところに格子状に光凝固治療を行います。糖尿病網膜症も網膜静脈分枝閉塞症(もうまくじょうみゃくぶんしへいそくしょう)も黄斑浮腫への光凝固治療が有効であることが大規模な臨床試験で証明されています。

 一方、びまん性浮腫と呼ばれ、造影剤のもれが網膜全体から起こっているような場合には、光凝固は有効な治療とならない場合が多く、硝子体(しょうしたい)手術を考慮することとなります。硝子体手術は、硝子体による牽引(けんいん)を取り除き、眼球中心に引っ張る力を軽減することで浮腫も軽減することを目的として行われます。網膜上に網膜前膜と呼ばれる分厚い膜がある場合には、浮腫だけでなく網膜剥離(はくり)も伴っていることも多く、この牽引除去効果はさらに高くなります。

 硝子体手術にはその他にも、硝子体を切除することにより硝子体に含まれている血管のもれを起こす物質を除去する作用や、網膜と硝子体液が直接触れるようにすることにより酸素の行き渡りをよくする効果などもあり、浮腫を軽減する効果を生んでいます。

 しかし、こうした効果により浮腫が改善しても、視力への影響はすぐに現れるわけではなく、1〜2年をかけて徐々に視力が改善します。長期間浮腫が持続していた場合には、浮腫がなくなっても視力は変わらないこともあり、視力改善効果は手術1年後で50〜60%です。

 黄斑浮腫に対しての薬物療法では、抗炎症作用をもつステロイド薬やプロスタグランジン合成阻害薬が以前よりよく使用されています。白内障術後の黄斑浮腫ではプロスタグランジンが眼内で増加することが原因となっていて、プロスタグランジン合成阻害薬の点眼が効果があります。ステロイド薬は内服投与が一般的ですが、全身的な副作用もあり、最近では、トリアムシノロン(ケナコルト)を眼内に注射する方法(硝子体注射)と眼外に局所注射する方法(テノン嚢下(のうか)注射)がよく用いられます。硝子体注射のほうが効果が強いですが、眼圧上昇などの副作用の可能性が高くなります。テノン嚢下注射では効果はやや弱いですが、眼圧上昇がなく効果の持続期間も長くなります。この治療はぶどう膜炎の黄斑浮腫では点眼治療に続き第一選択となっています。糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症にも使用されますが、効果は一時的で持続投与が必要となります。手術との併用ではよい結果も報告されています。

 浮腫の原因となる血管透過性を抑制する抗VEGF治療薬は黄斑浮腫には保険未承認ですが、最近、試験的に使用されるようになっています。網膜静脈閉塞症では劇的に浮腫を消失させますが、再発があり、注射を定期的に繰り返す必要があります。長期的な予後はまだ明らかになっていません。糖尿病黄斑浮腫に対しては、短期的な効果も不確実です。

 また、別のアプローチとして網膜静脈閉塞症の黄斑浮腫は、血栓による静脈閉塞が原因となっているため、血栓溶解剤の組織プラスミノーゲン活性化因子(t‐PA)を硝子体注射する治療が行われています。この薬剤も未承認のため試験的な使用に限られますが、著者の経験を含め国内外より有効とする報告があります。発症初期に投与できた場合には循環不全を改善し、視力改善が可能ですが、今後大規模な臨床試験が必要と考えられます。

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