病気事典[家庭の医学]

とうにょうびょうもうまくしょう

糖尿病網膜症<眼の病気>

糖尿病網膜症<眼の病気>について解説します。

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どんな病気か

日本では糖尿病が急速に増加し、それにつれて糖尿病網膜症も増えています。糖尿病はそれ自体が致命的ということは少なく、さまざまな合併症が全身をじわじわと蝕(むしば)んでいく病気です。糖尿病網膜症は代表的な糖尿病合併症のひとつです。しばしば失明に至る病気で、最近では日本の中途失明の原因の第2位を占めています。

糖尿病網膜症は網膜の血管、とくに毛細血管の病気です。毛細血管にこぶができたり、拡張して血管壁が薄くなったり、内腔(ないくう)が閉塞(へいそく)したりします。その程度や範囲が徐々に拡大することで網膜症は進行していき、やがて黄斑症(おうはんしょう)や増殖網膜症(ぞうしょくもうまくしょう)に至ると視機能が脅かされます。

原因は何か

もちろん糖尿病が原因ですが、糖尿病の原因を考えてみる必要があるでしょう。

日本人の糖尿病は大半が2型(インスリン非依存性)糖尿病です。日本人は遺伝的に2型糖尿病になりやすい人が多く、それに高度成長に伴う過食など生活習慣の変化が加わって、糖尿病が爆発的に増えたのです。

2型糖尿病は生活習慣病の性格が強い病型ですが、生活習慣病というのは本質的に予防すべきものです。予防の柱は、いうまでもなく食事や運動など生活習慣の改善ということです。しかし日本の現状は、結局のところそれが省(かえり)みられず野放しであったことを物語っています。

その根底にあるのは、知識不足だと感じています。糖尿病、糖尿病網膜症のことを皆がよく知っていれば、こうはならなかったでしょう。今や糖尿病と糖尿病網膜症に関しての啓蒙・教育活動は国家的課題といってもいいすぎではないと思います。

症状の現れ方

糖尿病になってから糖尿病網膜症が起こるまでには、少なくとも5年くらいはかかると考えられています。また、糖尿病網膜症を発症しても、すぐに症状が現れるわけではありません。自覚症状が現れるのは、網膜症がかなり進行した段階です。

症状は、眼底の中心にある黄斑部の網膜にむくみが出る黄斑症や、硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)や網膜剥離(もうまくはくり)を起こす増殖網膜症に至ると現れます。

黄斑症では視力が低下したり、物がゆがんで見えたりします。増殖網膜症では視界が暗くなったり、視力低下が起こります。硝子体出血が起こると症状は突然現れます。どす黒い雲がかかったようになったり、視野全体がまったく見えなくなったりします。

検査と診断

眼底検査が基本ですが、蛍光(けいこう)造影検査も必ず行います。糖尿病網膜症は病期を見極めることが治療のうえで重要です。

ごく簡単にいえば、単純期、前増殖期、増殖期の順に進行していきます。それとは別に、どの病期であれ、黄斑症が現れることがあります。それを的確に把握するには蛍光造影検査が不可欠です。

網膜症で視機能が損われるのは、黄斑症と増殖網膜症に至った場合です。

黄斑症は、中心のまわりの血管から血漿(けっしょう)(血管内の液体成分)がもれ、中心にたまることによって起こります。中心に水がたまると、やがて視力は大きく低下します(図41)。

増殖網膜症は、毛細血管が広い範囲で詰まることにより、新生血管という異常な血管が発生することで起こります。新生血管が破れると硝子体出血を、収縮すると牽引性(けんいんせい)の網膜剥離などを引き起こします(図42)。

治療の方法

有効性が確認されているのはレーザー網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)(コラム)と硝子体手術です。薬物治療もありますが、進行した網膜症にはあまり効果が期待できません。

レーザーは進行した網膜症の治療としては最も強力な方法です。黄斑症では水もれを起こしている部位を凝固したり、あるいは吸収を促進するために格子状に凝固したりします。前増殖期、増殖期の網膜症には汎(はん)網膜光凝固術が必要ですが、凝固時期としては増殖期に移行する前の前増殖期が最善です。

硝子体手術は主として増殖期の網膜症、すなわち硝子体出血や牽引性の網膜剥離に対して行われます。最近では、黄斑症にも硝子体手術が行われるようになっています。

病気に気づいたらどうする

糖尿病網膜症の場合、病気に気づくには2段階あります。まず、糖尿病に気づいた時、それから網膜症に気づいた時です。もっとも、自覚症状は乏しいので、気づくというより指摘されるといったほうが適切でしょう。理想は糖尿病である、あるいは糖尿病の疑いがあると指摘された時点で十分なコントロールを心がけることです。それによって網膜症の発症は、ほとんど予防できると考えられています。

網膜症が発症してもまだ間に合います。その時点で、やはり厳密なコントロールを行えば、進行はかなり抑えられることが証明されています。何より重要なのは自分の病気を理解し、内科および眼科にきちんと通院することです。

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