病気事典[家庭の医学]
たはつせいこうかしょう
多発性硬化症
多発性硬化症について解説します。
執筆者:
東北大学医学部神経内科学教授
糸山泰人
どんな病気か
多発性硬化症(MS)という名称は「脳や脊髄(せきずい)に多発性の硬い病巣がみられる病気」という意味からつけられています。
この病巣は脱髄病変(だつずいびょうへん)といい、神経線維をおおっている髄鞘(ずいしょう)が主に障害されています。この病変が大脳、脳幹(のうかん)、小脳、脊髄や視神経などの中枢神経に規則性もなく、起こっては治るということを繰り返すので、患者さんはさまざまな神経症状の再発と寛解(かんかい)(改善)の間で悩みます。
MSは、厚生労働省の特定疾患(いわゆる神経難病)に指定されています。 欧米諸国に比べて少ないものの、日本には1万人以上の患者さんがいるものと思われます。発症する年齢は、若年成人といわれる20~30代が多く、また男性に比べて女性に多く発症します。
原因は何か
中枢神経では、神経細胞から伸びる長い突起(軸索(じくさく))が髄鞘(オリゴデンドロサイトという細胞の模様突起)により節状におおわれていて、神経の情報伝達に重要な役割を果たしています。電線にたとえると、軸索は中心の銅線、髄鞘は銅線を包む絶縁体のゴム被膜に相当します。
髄鞘に包まれた軸索、すなわち神経線維が多く集まっている部分は、白っぽく見えるところから中枢神経系の白質(はくしつ)といいます。
神経線維の髄鞘が壊れた場合を脱髄といい、ちょうど電線のゴム被膜が破れて漏電(ろうでん)を起こす裸電線と同じで、神経機能はいろいろな程度に障害されます。
一方、破壊された髄鞘の再生が起これば、神経機能は再び回復し、症状は改善します。しかし、脱髄が繰り返し起こったり、その変化が激烈な場合には軸索も障害され、症状は改善されないままで残ります。
この脱髄病変は主に白質に起こることが多く、その発症のきっかけは不明です。何らかのウイルスの感染を契機に髄鞘に対する異常な免疫反応が起こり、髄鞘を傷つけてしまう自己免疫反応的な原因で、脱髄を起こすと考えられています。
症状の現れ方
MSの病変は、中枢神経であればどこにでも起こりうるもので、起こる時期もさまざまで規則性がありません。また、困ったことに症状がいったん治っても、ほかの症状の再発を繰り返します。したがって、患者さんごとに症状や経過が多様です。なかでもよくみられる症状は、しびれ感や感覚低下、手足の脱力や歩行障害、しゃべりにくさや飲み込みにくさ、視力低下、物が二重に見える複視、排尿障害などです。
これらの症状は、急性に現れることがほとんどです。病気の経過として、症状が改善したり悪化したりする、いわゆる再発と寛解を繰り返すタイプの患者さんが最も多く、次いでそれらの再発を幾度となく繰り返しながらだんだんと増悪(ぞうあく)していく病型が多いようです。なかには、最初から徐々に進行していくまれな型もあります。
検査と診断
患者さんごとにさまざまな神経症状が不規則に起こるので、診断は決して容易ではなく、専門の神経内科医の診察が望まれます。厚生労働省の診断基準によれば、「中枢神経系に2カ所以上の病巣を示す所見があり、それらの症状には再発と寛解がみられること」が診断の根拠とされています。
診断するための特異的な検査はありませんが、核磁気共鳴画像(MRI)による脳の撮影や腰椎穿刺(ようついせんし)(針を刺す)による脳脊髄液検査が、診断に重要な情報を与えてくれます。さらに、電気生理学的検査(各種誘発電位)なども加え、ほかの病気でないことを十分に検討したのちにMSの診断がなされます。
治療の方法
症状の増悪期や再発時には、副腎皮質ステロイド薬を大量投与するパルス療法と安静が必要です。
再発を予防したり、長期予後を改善させる目的では、インターフェロンβ(ベータ)を投与します。インターフェロンβの治療は有効ではありますが、1日おきの皮下注射あるいは毎週の筋肉注射を年余にわたって行わなくてはならないので、専門医との十分な相談が必要です。現在、内服薬をはじめとして、いくつかの再発予防の新薬が世界的に開発中です。
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