病気事典[家庭の医学]

にんちしょうせいしっかん

認知症性疾患

認知症性疾患について解説します。

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どんな病気か

認知症性疾患は、認知症を主な症状とするすべての病気の総称で、ひとつの病気を表しているわけではありません。次の項で述べるような、いろいろな病気がここに含まれます。

認知症とは、脳の後天的な障害のために起こる持続的な知的機能の障害で、そのために社会生活や日常生活に支障を起こす状態です。

原因は何か

認知症の原因にはいろいろあります。たとえば、脳血管障害、脳外傷、脳腫瘍(のうしゅよう)や脳炎などで、脳の広い部分が侵されると認知症が起こります。主に50歳以上で起こる認知症の多くは、表2に示した脳の老化と密接に関連した認知症性疾患です。

これらのうち、アルツハイマー病、レビー小体型(しょうたいがた)認知症、血管性認知症が三大認知症と呼ばれ、頻度の高いものです。

症状の現れ方

一般に認知症は、記憶の障害を中核とします。最近の記憶のほうが障害されやすく、過去の記憶は比較的保たれますが、進行とともに過去の記憶も障害されてきます。また、今日が何月何日か、ここがどこかがわからないといった見当識(けんとうしき)障害も加わり、判断が正しくできず、抽象的なことがわからなくなります。

物忘れが多くなることで気づかれることが多く、同じことを何度も話したり聞いたり、同じものをいくつも買ってきたりするために気づかれることもあります。また、今までわかっていたことがわからなくなる(失認(しつにん))、今までできていたことができなくなる(失行(しつこう))、話がうまく話せないとか話を理解できなくなる(失語(しつご))などの症状がいろいろな程度に加わることもあります。

物をしまったのを忘れて盗られたと思い込んだり(物盗られ妄想(もうそう))、真実でないことを話したり(作話(さくわ))、夜中に泥棒がいると怖がったり興奮したりすること(夜間せん妄(もう))もあります。誰もいないのにそこに人がいると思い込んだり(幻視(げんし))、何もする気がしないで寝てばかりいること(意欲低下)や抑うつが目立つこともあります。なかには、パーキンソン症状や手足の麻痺が起こることもあります。

これらの症状は、認知症の原因によって起こり方が異なります。一般には症状は徐々に起こってきて、ゆっくりと進行しますが、なかには進行が速いこともあります。定年退職とか配偶者の死、体の病気による入院など、何かのきっかけで認知症が目立つこともあります。脳梗塞(のうこうそく)の発作のあとに認知症が現れることもあります。

検査と診断

まず、認知症かどうか、認知症ならどういう病気かを明らかにする必要があります。そのためには家族から病歴を詳しく聞き、本人への問診や神経学的診察を詳しく行う必要があります。

簡単な認知症検査だけで認知症の有無が判定されがちですが、認知症の診断はそんな簡単な検査だけではわからないことが多いので注意が必要です。脳の画像検査は大切ですし、脳波検査、血液・尿検査、髄液(ずいえき)検査なども適宜参考にして病名を明らかにします。

治療の方法

脳炎、脳腫瘍、慢性硬膜下出血(まんせいこうまくかしゅっけつ)、正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)などの元の病気を治療することで治すことができる認知症(治療可能な認知症)は別として、老化性認知症性疾患に対する根本的治療法はありません。

日本では、アルツハイマー病の治療薬としてドネペジル(アリセプト)が広く使用されていますが、これも進行を遅らせる程度の効果しかありません。ドネペジルは、レビー小体型認知症にはアルツハイマー病より効果があることが知られていますが、それは認知症以外の幻視や妄想などの精神症状にも効果が期待できるためです(保険適用外)。

最近の話題はアルツハイマー病へのワクチン療法ですが、まだ実用には至っていません。そのほか、脳循環改善薬、ビタミンE、イチョウの葉などもありますが、これらが有効というエビデンス(根拠)はありません。非薬物療法として、音楽療法、絵画療法、回想法なども試みられています。また、デイケアやデイサービスなどのリハビリテーション活動も重要です。

認知症の行動・心理学的症状(BPSD)として幻覚・妄想・抑うつ・不穏などがありますが、BPSDへの対応は実際の臨床では重要で、専門医による治療で軽減・消失させることも可能です。

最近はとくに早期発見・早期治療の重要性が強調されています。

病気に気づいたらどうする

専門医(老年精神医学会や認知症学会の認定医)を受診するのがよいのですが、まだ専門医は少ないのが現状です。最近では、医師会で認知症医療のサポート医やかかりつけ医を養成していますので、保健所や地域支援センターや家族会で相談したり、ホームページで検索してください。

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