病気事典[家庭の医学]

しょうにのえいず

小児のエイズ

小児のエイズについて解説します。

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どんな病気か

私たちの体をさまざまな微生物(細菌、ウイルス、真菌(しんきん)(カビ)、原虫(げんちゅう)など)から守ってくれる免疫の仕組みのなかで、中心的な役割を担っているのはCD4リンパ球という細胞です。

ヒト免疫不全(めんえきふぜん)ウイルス(HIV)の感染によってこの細胞の数が減少し、その結果、指揮官を失った免疫系がうまくはたらかなくなり、健康な人にはみられないような感染症(日和見(ひよりみ)感染症)やがんに侵されてしまう病気がエイズです。

原因は何か

大人の場合の感染経路として重要なものは性交渉、輸血、麻薬の回し打ち(注射針の共有)です。小児のエイズの大半は、こうして感染した母親からの母子感染です。母子感染は多くの場合、出産の前後に、もしくは生まれたあとの授乳によって起こります。

症状の現れ方

最初のうちは特徴的な症状はなく、何となく元気や食欲がなかったり、発達の遅れなどがみられたりします。そして次第に、さまざまな日和見感染症を発症します。代表的なものにニューモシスチス肺炎サイトメガロウイルス網膜炎(もうまくえん)、トキソプラズマ脳炎、カンジダ口内炎ヘルペス口内炎などがあります。

小児では、反復する細菌感染を起こすのも特徴のひとつです。カポジ肉腫というめずらしいがんや悪性リンパ腫も起こります。

検査と診断

まず、HIVに感染しているかどうかを確認します。よく用いられるのは抗体検査ですが、注意する点が2つあります。

ひとつは、乳児では胎盤を介して母親から抗体が移行するため、ウイルスに感染していなくても陽性になること(偽陽性(ぎようせい))です。もうひとつは、ウイルスに感染した場合でもすぐには抗体がつくられないため、感染して間もないうちは見過ごされてしまう可能性があること(偽陰性(ぎいんせい))です。

したがって、確実な診断のためにはウイルス自身(またはそのゲノム)を見つける検査が必要です。さらに、ウイルスのゲノム量を測定することによって、エイズへの発症の危険度(進行の速さ)を知ることもできますし、治療がうまくいっているかどうかの目安にもなります。

もうひとつ大切な検査は、CD4リンパ球数を測定することです。この細胞の数は免疫力とよく相関するので、日和見感染症の危険性がどれくらいあるのかを知ることができます。

治療の方法

HIVを直接攻撃する治療と、かかってしまった感染症やがんの予防・治療が大切です。HIVに効く薬は、中途半端な使い方をするとウイルスが耐性を獲得して、すぐに効かなくなってしまいます。また副作用も強く、薬の組み合わせにも細心の注意が必要です。

したがって、専門の医師によって3種類以上の薬を組み合わせるカクテル療法を行い、効き具合(ウイルスのゲノム量の測定)や不都合(副作用の出現)がないかどうかを確かめながら管理していくことが求められます。

日和見感染症の治療は、それぞれの病原体に有効な薬を使っていきます。たとえば最も重要なもののひとつ、ニューモシスチス肺炎ではST合剤を予防や治療に用います。

病気に気づいたらどうする

母親が感染している可能性がある場合、必ず母親自身が検査を受けなければなりません。まったく無処置の場合に母子感染する確率は20~30%ありますが、あらかじめわかっていて十分な予防措置(母子への抗ウイルス薬の投与と選択的帝王切開(ていおうせっかい)による分娩、そして母乳を禁じること)をとることで、子どもの感染率を数%未満にまで下げることができます。

感染してしまったら、専門医による管理が不可欠です。全国各地のエイズ拠点病院として指定されている病院(http://www.acc.go.jp/link/link_frame.htm)を受診してください。

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