ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理 - メディカルiタウン

メディカルiタウン

ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理

究極の個人情報ゆえに

個人のゲノム情報は、その個人が一生の間、変わることなくもち続ける究極の個人情報です。個人のゲノム情報は両親に由来することから(生殖細胞系列と呼ばれます)、その個人にとどまらず血縁者に共有される情報でもあります。一生変わらない情報であるという特性から、ゲノムを調べることは、将来の発症の可能性や保因者の可能性を知ること、さらには出生前や受精卵の段階での診断にもつながる可能性があります。また、血縁者が診断されたことで思いがけなく個人のリスクが推定されることもあります。よって、十分な倫理的配慮をもって進めることが不可欠です。

一方で、ヒトゲノムに個人差があることは1980年代より知られてきました。一定の塩基配列が繰り返すその繰り返しの数の個人差がまず見つかり、その後にSNP(スニップ)と呼ばれる1塩基の個人差が見出されました。このような個人差は、多型もしくはバリアントと呼ばれます。多型を複数調べることで、個人を高い精度で特定することも理論上は可能であることから、2017年に改正された個人情報保護法では一定数のDNA多型情報がまとまると個人情報となることを認めています。

生殖細胞系列のゲノム情報が「究極の個人情報」と呼ばれるのは、このようなゲノム情報の特異性によります。よって、このような情報を取り扱うには、高度に倫理的な配慮が求められます。
9ページTOPへ▲

研究にも臨床にも活用されるために

ヒトゲノム・遺伝子解析研究は、個人や集団のゲノムを解析し、その情報を疾患の診断や治療に、また社会に有効に活用することを目的に行われます。研究にはヒトゲノム試料やゲノム情報が必要で、研究に賛同した方々から試料や情報の提供を受けて、研究が開始されます。よって試料や情報の提供者は、研究の意義・問題点の理解に加えて、ゲノム解析研究の特性を十分理解したうえで、自律的な意思をもってゲノム試料や情報を提供することが基本となります。ヒトゲノム(ヒトDNAのすべて)の解析環境の進展から、ヒトの31億塩基対からなるゲノム情報を、高速にまた比較的安価に解析することが可能になり、研究にゲノム解析が果たす役割が年々大きくなっています。

このような状況より、文部科学省、厚生労働省、経済産業省は平成13年(2001年)に「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(ゲノム指針と略称されます)を公表し、その後に数回の改正を経て、平成29年(2017年)には個人情報保護法改正にともない一部改正が行われました。この指針では、ヒトゲノム研究は、試料や情報の提供者とその血縁者の遺伝的素因を明らかとすることから、その取り扱いには倫理的・法的・社会的問題(Ethical Legal Social Issuesの頭文字をとってELSIと呼ばれます)を考慮し、人間の尊厳と人権の尊重のもとで社会の理解と協力を得て実施することが不可欠である、との立場が明示されています(表3)。

ヒトゲノム解析は、研究面にとどまらず、臨床的にも重要性が増しています。それは、遺伝学的診断(遺伝子や染色体の生まれつきの変化を診断する)が疾患の確定や治療方針の決定などの臨床の場面で活用される機会が増加しているためです。よって厚生労働省は2017年に「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(2004年に定められた「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」が改正されたもの)を公表し、診療でのゲノム情報の取り扱いの留意点を示しています(表4)。また2001年に日本医学会も「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」を公表しています。上記指針やガイダンスなどでは、ゲノム研究や遺伝学的診断には、ヒトゲノム解析の倫理的な面を十分に考慮する必要性とともに、臨床遺伝学の専門的知識をもつ者(臨床遺伝専門医、非医師の認定遺伝カウンセラー)による遺伝カウンセリングの実施などによって本人および血縁者を支援することの必要性が明示されています。

ゲノム解析についての倫理的な対応がますます重要となってきた理由としては、ゲノム解析状況の進展があります。すなわち、大量かつ迅速なゲノム解析を可能とした次世代シークエンサー(シークエンサーとは、塩基配列を読み取る装置のことです。次世代シークエンサーでは、大量の塩基配列を自動的に同時並行で読み取ることができます。これを利用することで、これまで長時間を要していたサイズの大きな遺伝子や全ゲノムの解析も迅速にできるようになりました)の開発、解析コンピューターの高速化というハード面に加えて、ゲノムデータベースの拡充が大きな力となっています。このような基盤を背景に、これまで診断が未確定だった稀少疾患の患者さんの協力のもとにゲノム解析がなされ、疾患の原因となる変異が突き止められてきています。また多数の患者さんや患者さんでない方々の協力のもとに、生活習慣病の遺伝的な要因が解析されるなどのゲノム研究が進められ、成果をあげています。

しかし一方でゲノムを広く調べるため、当該疾患には直接関わらない病的な変異が二次的に見つかる状況(偶発的所見とも呼ばれます)も出てきました。また、がん細胞特有のゲノム変化(体細胞変異)を幅広く調べて治療法を探索する研究も、前記の技術を基盤として行われています。この場合は、目的とするがん細胞特有の体細胞変異以外にも、がん化で変化しない生まれつきのゲノム(生殖細胞系列)情報も同時に読み取られるため、二次的・偶発的所見が見出される可能性が常にあり、生殖細胞系列のゲノム解析倫理を念頭において慎重に解析を進める必要があります。

9ページTOPへ▲

ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理の初診に適した科目

初診に適した診療科目を選択すると、iタウンページの病院検索のページへ遷移します。
(表示がない場合は、該当するデータがございません。)


9ページTOPへ▲

執筆者:



他の分類から探す

子ども

女性

男性

高齢者

こころ

皮膚・アレルギー

頭・顔

上半身

下半身

全身

生活習慣病

遺伝的要因

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
(C)株式会社 法研
[免責事項・著作権等について]

9ページTOPへ▲