医療特集

中高年期以降に多い慢性腰痛 - 原因・症状・検査

更新日:2016/04/25

3カ月以上続く腰痛を「慢性腰痛」と呼びます。腰痛はその原因も病状もさまざまですが、長期化する前に痛みの原因を探り、適切な治療を行うことが大切です。近年広まりつつある「ペインクリニック」で取り組まれている治療について、専門の医師に、詳しく伺いました。

NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 部長 安部 洋一郎

お話を伺った先生:

腰痛とは

40~60代の約4割を悩ます腰痛

国の調査において、腰痛で悩む人は2,770万人(男性1,210万人、女性1,560万人)と推定されています(出典=厚生労働科学研究「膝痛・腰痛・骨折に関する高齢者介護予防のための地域代表性を有する大規模住民コホート追跡研究」)。同研究によれば、40~60代の約4割が腰痛に悩んでいるともされます。

腰痛の原因

腰痛とは、様々な原因によって腰椎部(図1)に起こる痛みの総称です。腰椎周囲の筋肉疲労、骨や椎間板などの炎症や神経圧迫が痛みを引き起こしていることが多いのですが、一部には、骨の腫瘍、骨折、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などの重大な病気が含まれています。また、まれではありますが、尿路結石症、胆石症、大動脈解離、子宮内膜症・子宮筋腫、あるいは内臓のがんなどから生じている腰痛もあります。

腰椎部の構造
腰椎部の構造 詳細

図1 腰椎部の構造

約8割の慢性腰痛は原因不明

慢性腰痛の場合も、骨の異常や病気など何らかの原因があるはずだと思うのですが、約8割もの慢性腰痛は、実ははっきりとした原因が分からないそうです。

安部洋一郎先生は、「大抵の痛みは、理由が複合的に重なりあって起きているので、まず、それを分析して、作戦を練るのが、痛みの診療の第一歩です」と語ります。

急性腰痛と慢性腰痛

腰痛は起こる時期によって、急性腰痛と慢性腰痛に大別されます。

発症から4週間未満は「急性期」、4週間を過ぎて3カ月までは「亜急性期」、3カ月以上は「慢性期」と呼ばれます。

「いつまでも痛みが治まらない、と時間が経ってから来院される方がいらっしゃいますが、亜急性期のうちに手当をした方が、痛みをこじらせずに済みます」(安部先生)

例えば、打撲であれば炎症は3~4週間で治るはずです。もしその3倍ほどの期間がたって「慢性期」になっても、まだ痛いという場合は、痛みの悪循環が起こっているか、神経が損傷を受けている可能性があると考えられるからです。

慢性腰痛の原因

腰痛は生活習慣の積み重ねから起こる

中高年期に慢性の腰痛を訴える人が増えてくるのには、理由があります。痛みには、長年の生活習慣もかかわっているからです。

二足歩行をしているヒトの足腰には、宿命として、長年重量の負荷がかかっています。それに加えて悪い姿勢を続けていると、骨が歪んでくることさえあり、少しずつ痛みが蓄積されて慢性化していきます。姿勢の悪さには筋力低下も関係しています。筋力は30代後半をピークに下降し、60歳以上では年1%ずつ低下していくと言われますから、普通に生活しているだけでは腰痛は避けられないともいえます。

痛みとは何か

痛みの原因を突き止めるには、“痛みの成分分析”が重要になってきます。神経伝導経路において障害を受けている正確な場所とその性質によって、痛みは大きく3つに分類されます。大部分の慢性痛は、これらの痛みが混合しているため、割合に応じて見合った治療を行う必要があります(図2)。

痛みの原因による分類

図2 痛みの原因による分類

痛みの原因による分類

侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)

痛みを感じる神経伝導路の末端である侵害受容体の周囲に炎症が生じることで発生する痛みで、神経自体に障害はありません。通常の非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)が有効で、急性痛の多くはこれに属します。

神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)

神経伝導路自体に障害が生じた痛みで、脳・脊髄が障害部位である「中枢性神経障害性疼痛」と、脊髄神経・脳神経などの神経経路の障害が原因の「末梢性神経障害性疼痛」に分類されます。さまざまな痛みの増幅経路が作動して、難治性となることが多いものです。障害を受けた箇所が治癒した後に痛みが残ったり、帯状疱疹が治った後にも痛みが続いたり、手や足を切断した後にも、そこが痛むように感じられることが知られていますが、こうした慢性痛は、神経障害性疼痛である可能性が高いとされます。

心因性疼痛(しんいんせいとうつう)

器質的には異常が認められないのに、心理的要因が主体となって継続する痛みです。家族など周囲の人が患者に理解を示さないために、痛みが増強している場合などもあります。そうした場合、認知行動療法などによる心理面でのコントロールが有効です。

腰痛の診療

医療機関を受診すべき腰痛とは

打撲やぎっくり腰など、ごく急性期の炎症の応急処置としては、ゴールデンタイムとされる最初の6時間以内は冷やし、その後は温めるのが鉄則です。しかし、安静にしていても痛む、発熱・胸痛を伴う、脚の痛みや麻痺があるような場合は、急性痛の危険信号なので、速やかな受診が勧められます。

反面、原因がはっきりしないなどの慢性的な痛みに悩まされている人は、医療機関を受診してよいのか迷うことがあるでしょう。

「日常生活が腰痛によって阻害されている人は、早めに受診してください」(安部先生)

初診の選択肢にペインクリニック

受診する科目ですが、整形外科が一般的です。痛みの治療は、まず薬物療法が選択され、それでは効果が不十分な場合、整形外科では手術を選択することが多いようですが、近年、痛みの診断・治療の専門家として注目されているペインクリニックで行うのは、薬物療法と手術の間を埋める治療と言えます。

「漫然と鎮痛薬を飲み続けていると、心因性の痛みなども加わったりして、痛みが悪化していくこともあります。初期には、痛みの原因がシンプルですが、時間が経過するに伴って、様々な要素が複合してきます。本当の原因を突き止め、早くから適切な治療につなげることが、悪化防止になります」(安部先生)

火事に例えればボヤのうちに消火を

繰り返しになりますが、痛みは発症から3カ月までの「亜急性期」までに治療した方が、こじらせずに済みます。火事で延焼を防ぐには、ボヤのうちに消火した方がいいのと同じです。もし、薬物では痛みが治まらないと感じているのであれば、「亜急性期」までにペインクリニックを受診した方がよいでしょう。逆に、最初からペインクリニックを受診して、痛みを分析してもらった上で、必要に応じて他の診療科(整形外科など)を紹介してもらう方法もあります。

日本ペインクリニック学会の専門医は、全国に約5000人いて、徐々に増えています。病院内にペインクリニック科を掲げている所もあれば、専門のクリニックもあります。

腰痛の検査

医療機関で受ける検査

腰痛を訴えて医療機関を受診した場合、初診では、問診や理学的検査が行われます。理学的検査とは、患者の身体に対して、直接的に打診、触診、聴診などを行って、障害の場所や状態などを調べる検査です。

また、血液検査や尿検査、X線検査なども行います。さらに、必要であれば、CTやMRIなどの画像診断を用いて、詳細に調べることもあります。

「骨の変形=痛み」ではない

X線、CT、MRIなどの画像診断で、骨の変形などが見つかった場合、それが痛みの原因になっている人もいれば、全く痛みを感じない人もいます。中高年に無差別にMRIを撮ってみたところ、約7割は変性があったにもかかわらず、痛みは感じていなかったという研究報告もあります。画像診断は、必ずしも痛みの原因を捉える検査ではないのです。

神経ブロックで痛みの原因を突き止める

ペインクリニックでは、治療法の一つである「神経ブロック」を、痛みの原因を正確に突き止めるためにも使います。

神経ブロックは、麻酔薬を注射することで痛みを緩和する治療ですが、打ってみて実際に痛みが減れば、そこが原因箇所だと分かり、正確な診断ができます。

腰痛の場合には、背中から針を刺し、まず、脊髄の外側(硬膜外)の空間に麻酔薬を注入します。この硬膜外ブロックによって、麻酔薬が、椎間板、足に行く神経根、椎間関節、筋肉などにまんべんなく広がり、全体の痛みが軽減します。その後、痛みの主原因となっていそうな箇所をブロックして、正確な場所を突き止めます。

安全性の高い神経ブロック

「神経ブロック」は漠然と”怖い”と思われるかもしれませんが、超音波(エコー)やX線を使いながら、神経の場所を見定めていく安全な方法が確立しており、針穴からの感染、出血、神経障害などの重篤な合併症が起こるリスクはほとんどありません。

また、痛みが激しい人には、直接神経根に刺すのではなく、神経の周りに刺して痛みが広がらないような工夫を行い、きちんと“火元”に麻酔薬が達しているかをチェックします。

安部 洋一郎先生の詳細プロフィール
NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 部長 安部 洋一郎

NTT東日本関東病院 ペインクリニック科 部長

取得専門医・認定医

  • 日本ペインクリニック学会認定医
  • 日本麻酔科学会麻酔指導医