医療特集

下肢静脈瘤について - 手術などの治療と予防

更新日:2017/05/08

圧迫療法、外科手術などの治療と手術方法の選択について伺いました。また、予防についてもご紹介します。

NTT東日本関東病院 皮膚科 主任医長 出月 健夫

お話を伺った先生:

下肢静脈瘤の治療

下肢静脈瘤を治すための薬はないので、以下のいずれかの治療を行います。

圧迫療法

圧迫療法は、弾性ストッキングを履いて脚を締め付け、血流が滞らないようにして静脈の環流を促す治療で、軽度な場合に用いられます。後述する手術療法の適応がない人、手術を行いたくないという人も、この治療の対象になります。

弾性ストッキングは、外科や産科の術後の血栓症を予防する圧力が低いもの、静脈瘤用の圧力が高いものなどいくつか種類があり、圧力の単位はヘクトパスカル(hPa)で明示されています。着圧ソックスなど、むくみ予防などの目的で市販されている商品も多くありますが、下肢静脈瘤の人には医療用の少し圧力が高めのものが必要です。どの程度の圧力がよいかは、受診したうえで医師の指示に従ってください。

医療用の弾性ストッキングは病院の売店などではたいてい扱っています。安いものでも1足2,000~3,000円程度と市販品より高めですが、保険の適用はありません。

就寝中は重力が脚に集中しないので、起きている日中だけ履いていればよく、着用中は圧迫効果が持続します。ただし、圧迫療法は、対症的な治療であって根本治療にはなりません。

外科手術

根本治療の主となるのは外科手術です。

手術すべきなのは、自覚症状が強くて困っている人です。また、エコーで見て鼠径部大伏在静脈径が8mm以上の人なども手術の適応になります。皮膚の炎症などが強い人も同様です。前述したとおり、自覚症状のレベルと皮膚症状のレベルは必ずしも一致するわけではないので、足のむくみが強い、重い、だるい、つる、という自覚症状が強ければ手術を考慮します。また、見た目がどうしても気になるという人に対しても手術を行うことがあります。

ストリッピング手術(静脈抜去術)

ストリッピング手術は、弁の壊れた血管を抜き取る手術です。主に血管外科で行われていますが、形成外科や皮膚科で行う場合もあります。

脚の付け根を切開し、そこから血管を抜き取ります。傷は1~3cmほどですが、傷跡が目立つようなものではありません。局所麻酔ではなく神経ブロックか腰椎麻酔をして行いますので、術後数時間は歩けません。

図4 ストリッピング手術

図4 ストリッピング手術

『血管を抜き取る』と聞くと、そんなことをして大丈夫なのかと心配されると思います。静脈には支流が多いこと、また還流時の血液はほとんどが深部静脈を通ることから、問題のある血管を抜き去っても血流に問題が出ることはありません。

血管内焼灼術

血管内焼灼術(けっかんないしょうしゃくじゅつ)は、レーザーまたはラジオ波(高周波)を用いて静脈瘤を焼き切る治療です。レーザーかラジオ波かは焼き方が異なるだけで、術後の優劣には差がありません。いずれも局所麻酔で行うことができ、脚の付け根から細い管(ファイバーカテーテル)を血管内に入れて施術します。

レーザーの場合は、ファイバーの先端からレーザーを照射しながら、1cmを6~7秒かけてゆっくり焼いていきます。

ラジオ波の場合は、ファイバーの先端近くに7cmほど高周波が照射される部位があり、7cmずつを焼いては移動していきます。

レーザーのほうが先に保険適用となっており、少し歴史があります。

図5 血管内焼灼術

図5 血管内焼灼術

血管内焼灼術のメリットは、メスによる傷が少なく、術後の痛みも小さいことです。ただし、瘤は小さく取るので、施術後も多少はボチボチとした傷が残ることがあります。

血管内焼灼術は、治療に要する時間もストリッピング手術と遜色がありません。手術時間は瘤をどの程度取るかによっても異なりますが、麻酔にかかる時間を除き、多い場合でも1時間、平均30~40分ほどです。クリニックなどを中心に日帰りで行われることがほとんどで、術後も歩いて帰宅することができます。

どちらを選択するか

ストリッピング手術は、下肢静脈瘤においてはいわゆる従来型の治療です。根治を目指す治療法として長年の実績があり、安全性も確立した手術といえますが、入院を伴う手術になるなどの点では患者側の負担も伴います。

血管内焼灼術は、傷が少なく痛みも少ないという利点があり、ストリッピング手術と成績も同等といわれています。入院施設のないクリニックなどでも施術可能で、2011年から保険適用になったこともあり、最近では同じ条件であれば血管内焼灼術が選択されることが多くなっています。ただし、血管の蛇行・拡張が強く、ファイバーが入らないようなときにはストリッピング手術が適しています。

また、このように血管の蛇行が強い場合では、ファイバーが入る上部10cm程度の部分だけを焼くという治療を行うこともあります。ただし、下部の瘤は取れませんので、血栓性静脈炎などを起こす場合があります。NTT東日本関東病院では、こうした場合にはストリッピング手術を行っています。

その他

表在静脈と深部静脈をつなぐ穿通枝(交通枝)において、弁が壊れるなどの機能不全を起こしたものを「不全穿通枝(ふぜんせんつうし)」といいます。これがある場合は、上記の手術と合わせ、逆流などを防ぐために結紮(けっさつ:血管を縛ること)を行う場合があります。

高位結紮術(こういけっさつじゅつ)という高い位置で静脈の血管を縛る手術もありますが、これだけでの根治は難しいため、現在ではあまり行われていません。

硬化療法

これは、注射によって静脈瘤に硬化剤(ポリドカスクレロール)を注入して血管を詰まらせ、固めてしまう治療です。硬化剤を注射した後は、弾性ストッキングを履いて圧迫療法を行います。状態によっては、注射は1回だけでなく、何回か実施することもあります。

血管内焼灼術で血管を焼いたり、ストリッピング手術で血管を抜いたりするのは、ふくらはぎの上部3分の1までの部分に実施する治療です。下部の3分の2にこうした治療をすると、血管と並走している神経に影響が及び、知覚低下、痛み、痺れといった症状が出る恐れがあるので、外科手術は行いません。上部を手術すると下部の瘤もだんだんしぼんでいくことが多いのですが、なお気になる所があれば硬化療法を行うことがあります。術後に見た目が気になって硬化療法が必要になる人は、手術全体の2割程度です。

下肢静脈瘤の予防・再発予防

弾性ストッキング

前述したように、立ち仕事の人は治療後も同じ生活に戻るので、やはり再発しやすくなります。一般の人は、治療を行った後は弾性ストッキングを履き続ける必要はありませんが、立ち仕事の人には、再発予防の意味で継続して弾性ストッキングを履いてもらっています。

再発は過去に施術した場所に起こるわけではなく、他の血管もしくは前回施術した血管の支流に起こってきます。立ち仕事の人は仕事を続ける限り再発のリスクと付き合っていかざるを得ませんから、弾性ストッキングを履き続けることが重要です。

弾性ストッキングを履くことには予防効果がありますが、暑い時期には蒸れるので、不快感から長続きせず、実際に履き続けるのは困難です。一般の人は、下肢静脈瘤ができて、気になったら治療を受けるというのがよいでしょう。また、次の項目も参考にしてください。

運動・就寝時の姿勢・減量など

ふくらはぎの筋肉を動かしたり、足を上げ下げしたりすることは予防効果があります。いわゆるエコノミークラス症候群の対策と一緒で、かかとを接地した状態でつま先を上げて足首を動かすような運動が有効です。また、ちょっと足を上げた体勢で就寝するのもよいでしょう。

肥満もリスクを高めるので、痩せることは予防につながります。

深部静脈血栓症の予防

下肢静脈瘤は一般に命に関わらない病気ですが、下肢静脈瘤のある人は深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を起こすリスクが健常な人の3倍くらいになるといわれています。もっとも、健常な人が深部静脈血栓症を起こす確率はとても低いので、過度に深刻に捉えることはありませんが、飛行機に乗るときなどは、弾性ストッキングを履き、水分をよく摂取して、脚の運動も心掛けるようにしてください(水分摂取が勧められるのは、脱水が深部静脈血栓症の発症に関係しているからで、水分摂取が下肢静脈瘤の予防に直結するわけではありません)。

出月 健夫先生の詳細プロフィール
NTT東日本関東病院 皮膚科 主任医長 出月 健夫

NTT東日本関東病院 皮膚科 主任医長

取得専門医・認定医

  • 日本皮膚科学会専門医