病気事典[家庭の医学]

みんかんやく、やくそう、やせいやくそうのさいしゅとやくそうさいばい

民間薬、薬草、野生薬草の採取と薬草栽培

民間薬、薬草、野生薬草の採取と薬草栽培について解説します。

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民間薬

民間薬とは、科学的な裏付けのない生薬のことです。たとえばセンブリなどは昔、なぜ効くかわからないまま、とにかくおなかによいということで飲まれてきましたが、そういったものが民間薬です。

それが徐々にいろいろな研究がされて、解明された成分がこういう作用でおなかに効くという科学的裏付けがなされると、その時点で生薬になるわけです。ですからセンブリは、今は苦味健胃薬(くみけんいやく)という生薬です。

アロエは今でも民間薬のアロエと生薬のアロエがあります。生薬のアロエは真っ黒な塊で、これは下剤として使われます。しかし、民間薬のアロエを求めるときには注意が必要です。

"アロエ教"といわれるように、民間薬のアロエは痩(や)せ薬として密(ひそ)かに愛用されていますが、もし実際、痩せるようならそれは法律違反です。なぜなら、下剤の成分であるセンノシドつまり生薬のアロエが入っているからです。入っていないと謳っていても実際、入っているものが多いのです。したがって女性は注意しなくてはなりません。子宮粘膜の充血作用が強いので、とくに妊娠している場合は絶対に飲んで(食べて)はいけません。

薬草

薬草というのは何も、特別なものだけではありません。生薬の源は植物が90数%ですが、いわゆる雑草と呼ばれるものも含めて、植物はほとんど薬草とみることができます。薬学では雑草という概念がありません。たとえばアロマテラピーに使う香料を採る植物やハーブといわれるものには、いわゆる雑草もあります。

薬草には実際、どんなものがあるのかお知りになりたい場合は、大学の薬学部にある薬草園の見学会に参加されるとよいでしょう。東邦大学薬学部では全国に先駆けて、年に1回、薬草園を一般公開し見学会を催しています。多い時は1日で1400人ほどの方が来場されます。最近ではアロマテラピーを実習に取り入れたので、薬草園の植物でつくったハーブクッキーをお出ししたりしています。

京都大学の霊長類研究所がアフリカでオランウータンの生態を観察していた時、オランウータンが調子の悪い時いつも食べていた草に気づいて調べてみたところ、新たな医薬品が見つかったということもあります。そういうものが薬草であり、それを乾燥したり固めたりして、飲みやすくしたり運びやすくしたものが生薬というわけです。

薬草は生薬として使われるだけではありません。

薬膳料理は、その材料がほとんど薬草とも言えます。また懐石料理は魚と野菜(薬草)しか使用しません。しかしどちらも、その材料がどのような薬理効果を有しているかを知って食べることで、一味違ったものになります。そういった体験をするツアーや講演・試食会も開催され、一般の方に加え医師や薬剤師、栄養士なども参加しています。

野生薬草の採取と薬草栽培

わが国の山野には、かつて多くのところに薬草が見られ、それらを採取して生薬に加工したり、そのまま薬草として使われたりしていました。ところが今では、前述したように人件費の安価な外国からの輸入生薬との価格差から、国内産の生薬は姿を消してしまいました。

しかし生薬についても安全・安心志向が高まり、国内産生薬の見直しが叫ばれるようになりました。ただ長い空白期間があったため、薬草の鑑別知識が十分には受け継がれていません。今後は、その知識の普及とともに、野生薬草の保護と採取方法について検討していく必要があります。

それとともに、品質維持と供給の両面から薬草栽培が始められています。植物工場のような先端的栽培方法や遊休農地を利用したものなど、さまざまな形で進められています。

ここから生産されてくる薬草の品質評価とともに、適正対価の問題を真剣に考えて、安全で安心して使える漢方薬が供給されることが望まれています。

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