病気事典[家庭の医学]

おーだーめーど(てーらーめーど)いりょう

オーダーメード(テーラーメード)医療

オーダーメード(テーラーメード)医療について解説します。

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病気へのかかりやすさがわかる

ヒトのゲノムに多型(たけい)が見つかり、疾患のかかりやすさ、体質・個人差にDNA多型が関連することが明らかになりつつあります。

アルコールを解毒するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)を例にとると、この酵素遺伝子の1塩基の違い(多型)によってアミノ酸がひとつ異なる1型と2型となります。酵素活性の強さは、1型同士(1/1型)の組み合わせに比べると、1/2型では10分の1以下、2/2型ではほとんどゼロです。この遺伝子多型は飲酒の習慣や酔いの程度と相関するほか、食道がんのなりやすさにも関係しています。すなわち、1/1型と比べて1/2型では同量のアルコール摂取によって食道がんの発生が数倍以上高くなるとされています。ヨーロッパでは飲酒量が日本より多いにもかかわらず食道がんの頻度が低いのは、1/2型、2/2型の人がほとんどいないことも一因と考えられています。

このように、ゲノム多型によって特定の疾患になりやすい体質が決定され、そのうえに生活習慣(この場合は過度の飲酒)が加わると発症するという可能性があることがわかります。

複数の遺伝子の組み合わせ(多因子遺伝)と環境の相互作用が原因とされる疾患は生活習慣病とも呼ばれます。これらのなかには、高血圧、がん、糖尿病、肥満などがあり、ゲノム全体でゲノム多型などを網羅的に調べる方法(ゲノムワイド関連解析)により関連する遺伝子群が明らかになりつつあります。

ゲノム多型は多因子遺伝性疾患の発症のみならず、いわゆる体質や特定の疾患へのかかりやすさといった個人差に関わることから、今後の医療はゲノムの個人差を十分に考慮することが必要となると思われます。このような医療をオーダーメード医療、テーラーメード医療もしくは個別化医療と呼びます。

実際の診療に個人個人のゲノムデータが十分なエビデンス(効果がはっきりあること)をもって使用されるためには、ゲノムの網羅的解析が現在よりも高速で安価になることも必要です。一方でこのようなゲノム情報は、疾患の予防法の開発や、治療薬を開発するための基礎データともなります。

薬剤選択にも役立つ

薬剤の効果には大きな個人差があることは、これまでにもよく知られていました。これは薬剤代謝の速さが個人ごとに違うことがひとつの原因とされ、ゲノムの多型もこの個人差の原因と考えられます。このようにゲノムをもとにして薬剤に対する応答性を解析する研究をファーマコゲノミクス(ゲノム薬理学)と呼びます。

薬剤の効果の個人差については、チトクロムP450(CYP)遺伝子が多くの薬剤の代謝に関連するために早くから注目され、CYPの複数のタイプのそれぞれの遺伝子多型が調べられています。そのなかでもCYP2C9多型は、血液凝固を妨げ、血栓を防止するワルファリンカリウム(ワーファリン)の作用が強く出過ぎないかを知る目的で検査されます。なおワーファリンの作用にはVKORC1多型も関連しています。

2009年からは抗がん薬のひとつ、塩酸イリノテカン(CPT‐11)の副作用予測を目的とした遺伝子多型検査が保険診療として認められました。この薬剤は肝臓で活性化されたのち肝臓で分解されますが、この分解に関わるのがUGT1A1(UDP(ユーディーピー)グルクロン酸転移酵素)です。UGT1A1遺伝子には複数の多型があります。そのうちの数種のタイプではイリノテカンが分解される速度が遅くなることから、そのタイプの人は血液中の薬剤濃度が高いままとなり、副作用が強くなりがちです。

これ以外にも、薬剤の代謝や効果に関係する遺伝子多型が多く判明しています。遺伝子多型のみですべての副作用が説明できるわけではありませんが、遺伝子多型検査によって安全に投薬を受けられる可能性が高くなります。このような遺伝子多型はその個人が両親から受け継いだ遺伝子の型(生殖細胞系列と呼ぶ)によって決まり、採血によって調べられます。

一方で、分子特性の研究から開発された薬剤は分子標的(ぶんしひょうてき)薬と呼ばれます。最初の分子標的薬は正常細胞には見られず、ある種の白血病細胞にのみに見られる染色体転座(てんざ)による遺伝子変異(体細胞系列変異と呼ぶ)の解析から開発されました。この薬剤メシル酸イマチニブ(グリベック)は、この変異に由来する蛋白質(BCR‐ABL融合蛋白)を標的とするため、この白血病細胞にのみに効果が期待できますが、正常細胞には効きません。

このほかにも、そのがんに特異的な遺伝子変異がある場合には、その遺伝子変異を調べて分子標的薬が適切かどうかが判定されます。たとえば乳がんでHER2(ERB‐B2)遺伝子が増えて蛋白質が過剰になれば、その蛋白質に対するモノクローナル抗体(トラスツズマブ〈ハーセプチン〉)が使われます。EGFR遺伝子からできる蛋白質の機能(チロシンキナーゼ)を抑えるゲフィチニブ(イレッサ)が開発され肺がんに投与されますが、この薬剤の効果には遺伝子変異が影響することもわかってきました。

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