病気事典[家庭の医学]

さりんちゅうどく

サリン中毒

サリン中毒について解説します。

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どんな中毒か

サリンはナチスドイツが開発した化学兵器で、VX、タブン、ソマンと同類の神経ガスに分類される毒ガスです。無色、無臭の液体または蒸気で、非常に作用が速く、吸入、皮膚曝露(ばくろ)、経口のいずれによっても吸収されます。強いコリンエステラーゼ活性阻害作用をもっていますが、毒性の強さは、強い順にVX、ソマン、サリン、タブンとなります。

臨床症状は重症の有機リン剤中毒の症状に準じ、治療も同様です。

原因は何か

サリンは不可逆的(元にもどらない)にコリンエステラーゼと結合し、自律神経節、中枢神経系、神経筋接合部にアセチルコリンを蓄積させ、中毒症状を引き起こします。液体の皮膚曝露時のヒト最小致死量は、0・01㎎/㎏と極めて少量で、極微量の滴下で死亡します。また、散布時のヒト吸入半数致死濃度(LC50)は70㎎/m3です。

症状の現れ方

縮瞳(しゅくどう)(瞳孔が小さくなる)は必ず起こり、軽症の場合では薄暗いとか、ぼんやりするなどの視覚障害を訴えます。重症度に応じて鼻汁(びじゅう)・流涎(りゅうぜん)(よだれ)→気管支れん縮→分泌亢進→呼吸障害→けいれん→呼吸停止を示します。サリンは酸や酸性溶液に接触するとフッ化水素を遊離します。また、加熱されるとフッ化物やリンの酸化物である刺激性のフューム(固体が昇華し、凝結してできる微細な粒子の霧)を遊離し、肺水腫(はいすいしゅ)を引き起こすこともあります。

なお、極めて少量の皮膚曝露時に、全身症状がなく、汚染された部位の皮膚だけに筋線維性れん縮や発汗を認めることがあります。

検査と診断

重症度の判定を目的としたサリンの血中濃度測定は無効です。中毒症状や、血漿中または血球中のコリンエステラーゼ値が重症度の判断材料となります。赤血球コリンエステラーゼ値が70%にまで下がった患者さんの約半数に全身症状が現れます。

治療の方法

農薬の有機リン剤やほかの神経ガスと同様に、ヨウ化プラリドキシム(PAM)や硫酸アトロピンを可能なかぎり早期に使用します。米国では戦場に持参し、兵士自身が自己注射するためのキットが販売されています。

皮膚曝露の場合には、症状発現まで数時間以上かかるので、曝露6時間後の赤血球コリンエステラーゼ値が正常でも、経過観察を中止してはなりません。液体の経皮曝露時には、少なくとも18時間は入院して経過観察する必要があります。吸入曝露では症状の発現は早く、医療機関に到着するまでに重症化します。

縮瞳以外のすべての症状が消えるまで、入院・経過観察を行います。縮瞳のみが数週間持続することもあります。

応急処置はどうするか

現場で汚染を除去することが原則ですが、少なくとも衣類を脱がせ、これらをビニール袋に入れて密封処理します。二次汚染を防ぐため、救出、救助にあたる人は防護を怠ってはなりません。

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