病気事典[家庭の医学]

どくきのこちゅうどく

毒キノコ中毒

毒キノコ中毒について解説します。

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どんな食中毒か

アウトドア志向で野生のキノコをとって食べる人が増えていますが、食用キノコによく似た毒キノコがいろいろとあるので、食べる前には必ず毒キノコかどうかを正確に見極め、不十分な知識で判断しないよう心がけてください。

キノコ狩りをする人は、毒キノコに関する知識を日頃から身につけておくことが大切です。専門家にたずねるほか、表1に示すホームページを利用するとよいでしょう。

症状の現れ方

(1)消化器系障害

日本で発生したキノコ中毒の70%は、胃腸障害を引き起こすクサウラベニタケ、ツキヨタケ、カキシメジ、ニガクリタケ、イッポンシメジなどによるものです。30分~3時間後に吐き気、腹痛、嘔吐が現れ、腹痛に続いて水様便、時に血便が激しく出ます。

(2)強い肝・腎臓障害(アマニタトキシン症候群)

死亡する症例の90%以上は、ドクツルタケ(とくに多い)、タマゴテングタケ、コタマゴテングタケなどの猛毒キノコが原因です。10~20時間後、急に激しい腹痛、嘔吐、下痢(水様便、血便)になり、脱水症状ののち、肝臓、腎臓などに障害が起こります。

毒成分にはアマトキシン、ファロトキシン、ビロトキシン類などの環状ペプチドが多数あります。

(3)飲酒した人に限られる中毒(コプリン症候群)

ヒトヨタケ、ホテイシメジなどによるものです。キノコ自体は食用ですが、キノコの成分であるコプリン、デセン酸が肝臓でのアルコールの分解を妨げるため、飲酒後30分~1時間で、顔から胸にかけて紅潮し、頭痛、動悸(どうき)など二日酔いの症状になります。

(4)神経系障害

・ムスカリン症候群

アセタケ、カヤタケなど白い小型のキノコで起こります。10~30分後に激しい発汗、流涎(りゅうぜん)(よだれ)、流涙(りゅうるい)、瞳孔(どうこう)縮小、血圧低下などが現れ、呼吸困難になります。毒成分はムスカリンなどです。

・イボテン酸症候群

30分~1時間後に短時間眠くなったのち、興奮、めまい、けいれんなどの症状が現れ、進行すると幻覚、精神錯乱(さくらん)、意識不明になります。ベニテングタケ、ハエトリシメジなどに含まれるイボテン酸と、その代謝産物ムッシモールなどの作用によります。

・シロシビン症候群

オオシビレタケ、ヒカゲシビレタケ、ワライタケなどは幻覚(げんかく)作用を示すキノコです。30分~1時間後に幻覚、知覚麻痺、めまい、言語障害が現れ、意識不明に陥ります。

2002年から、幻覚性物質(シロシビン、シロシン)を含むキノコ類は麻薬原料植物に指定され、その所持(使用、売買目的)が法令によって禁止になりました。

(5)ドクササコ(ヤブシメジ)中毒

食後数時間~4、5日すぎから症状が現れ、1カ月以上も手足の先端がはれて激痛が続きます。アクロメリン酸などの成分が知られていますが、毒作用に関係するかどうかは未確認です。

(6)カエンタケ中毒

食後30分~2時間後に激しい嘔吐、水様下痢が現れ、四肢と顔面の粘膜にびらん、頭髪の脱毛から、腎不全、循環器不全、脳障害など全身症状になります。毒成分はサトラトキシンで、近年ベニナギナタタケと誤食し、死者が出ました。

(7)スギヒラタケ関連脳症

2004年、東北、北陸地方に急性脳症が発生し、多数の死者が出ました。主に腎機能障害の患者がスギヒラタケを摂食後、数日して発病したため、大事件になりました。原因は特定されていませんが、レクチン、シアンが調べられました。食用キノコ中のシアンは十分に加熱調理すれば減少し安全ですが、タモギタケのようにシアン含有量の多いキノコを多量に食すると中毒の可能性があり、注意が必要です。

検査と診断

食事後、中毒症状が現れた時はただちに受診(内科、救命救急センター)してください。問診(キノコの外観、採集場所、調理前の処理、調理法、食べた量)と、食べ物の残り、調理屑、吐物、便などの検査によって毒キノコの種類を調べます。

治療の方法

基本的な処置として、水分および電解質液を補給しながら、催吐、胃洗浄、吸着剤(活性炭)の投与などで早期に除毒します。

短時間に現れた消化器系障害の場合は対症療法ですみ、数日中に治ります。しかし、アマニタトキシン症候群ではただちに入院し、早期の毒素除去、集中治療が必要です。

中毒に気づいたら

6時間以上遅れて発症することもあるので注意しましょう。緊急時には、(財)日本中毒情報センターの中毒110番に問い合わせてください(表1)。

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