病気事典[家庭の医学]

まらりあ

マラリア

マラリアについて解説します。

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どんな感染症か

マラリア原虫による感染症で、全世界の100カ国以上にみられ、年間3~5億人の罹患者と150~270万人の死亡者があるとされています。その大部分はサハラ以南のアフリカにおける小児ですが、東南・南アジア、オセアニア、中南米などにも多くの発生がみられます。

日本では旅行者がこれらの感染地で感染し、帰国して発症することが多く、国内での診断・治療の遅れが原因で死亡する例も近年みられています。日本での届け出は年間60~80人です。

ヒトに感染するのは熱帯熱(ねったいねつ)、三日熱(みっかねつ)、四日熱(よっかねつ)、卵形(らんけい)マラリア原虫の4種類の原虫です。いずれもハマダラカによって媒介され、蚊に刺されて感染します。一般に熱帯熱マラリア以外の経過は良好ですが、熱帯熱マラリアは、アフリカからのマラリア輸入症例の8割を占め、悪性なので、アフリカからの帰国者で発熱した場合は熱帯熱マラリアを疑う必要があります。年間1~数例の死亡例が報告されています。

症状の現れ方

感染した蚊に刺されて1~数週間後に発熱、悪寒(おかん)、戦慄(せんりつ)(震え)とともに発症します。発熱に伴い、倦怠感(けんたいかん)、頭痛、関節痛、筋肉痛、悪心・嘔吐、腹痛、下痢などがみられることもあります。熱発作は数時間続いたあとに大量の発汗とともに解熱します。

三日熱と卵形マラリアでは48時間ごとに、四日熱では72時間ごとに熱発作が起こるのが典型的とされますが、これらの熱発作のパターンは発病初期にはあまりはっきりしません。熱帯熱の場合は熱発作のパターンが不規則だったり、発熱がずっと続いたりします。

熱帯熱では重症化すると致命的になることがあるので、すみやかに診断し、治療を始める必要があります。重症になると脳性マラリア、急性腎不全肺水腫(はいすいしゅ)、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(DIC)による出血傾向、重症貧血、代謝性アシドーシス、低血糖、血色素尿(けっしきそにょう)などといったさまざまな合併症を起こし、しばしば死に至ります。

検査と診断

血液塗抹標本を色素で染めて、マラリア原虫に感染した赤血球を顕微鏡で確認する方法が一般的です。先に述べたように、ほかの3つのマラリア原虫種によるマラリアと異なり、熱帯熱は重症化して命に関わることがあるので、その区別はとても重要です。

顕微鏡を用いた判定にはある程度の熟練を要するので、経験のある病院で行う必要があります。マラリア原虫の抗原を検出するキットもあり、専門の研究・検査機関で検査が可能です。また、PCR法により原虫のDNAを検出することも一部の研究機関でできます。

誤診や診断の遅れは命に関わるので、慣れていない医療機関でいたずらに診断を試みるのではなく、すみやかに専門の研究所、大学、病院に相談する必要があります。

治療の方法

マラリアは早期の適正な治療によりほとんどが治り、再発も防げます。熱帯熱以外のマラリアの急性期の治療には、一般にクロロキンが用いられます。クロロキンが入手できない場合はスルファドキシン・ピリメタミン合剤(ファンシダール)、メフロキンなどが用いられます。

熱帯熱ではクロロキンやファンシダールへの耐性(薬が効かないこと)がよくみられるので、最初からメフロキン、あるいは経口キニーネとドキシサイクリンの併用療法や、アトバコン・プログアニル合剤による治療が有効であることが多いようです。それぞれの薬には禁忌・副作用があり、素人療法は危険です。

病気に気づいたらどうする

熱帯地方に渡航し、蚊などに刺されたり昆虫に咬まれたりした覚えがあり、発熱があった場合は、すぐに感染症の専門医を受診すべきです。前述のとおり、熱帯熱の場合、数日の診断・治療の遅れが命取りになりかねません。

予防のために

感染流行地に滞在する場合は、早期診断・治療よりも、マラリアの感染をあらかじめ予防することが重要です。予防には感染を媒介する蚊の行動時間である夕方から朝方の外出を避ける、長袖のシャツ、長ズボンをはく、昆虫の忌避(きひ)剤を用いる、就寝時に蚊帳(かや)を使うといった一般的な注意が大切です。

また、必要であればあらかじめ定期的に予防薬を内服することもできます。予防薬を服用する場合は、専門医の指導のもとに慎重に薬剤を選択し、過不足のない予防内服を行う必要があります。

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