病気事典[家庭の医学]

しんこう・さいこうかんせんしょうとはなにか

新興・再興感染症とは何か

新興・再興感染症とは何かについて解説します。

執筆者:

解説(概論)

この用語は一見新しく響きますが、何か突然このような感染症が登場したわけではありません。

1970年代なかば以後、世界経済の高度成長における社会基盤整備のなかで、上下水道の不備に起因する感染症は少なくなり、また、抗生物質製剤の発展により細菌性疾患が激減したことは事実です。しかし感染症、とくにウイルス感染症は絶えず新たな病原体が発見され、とどまるところを知らない状況にあります。

1992年、米国大統領府は、「新興・再興感染症とそれらへの取り組み」という教書を出し、米国厚生省にあたるCDC(米国疾病予防管理センター)とWHO(世界保健機関)はこれに呼応し、感染症対策の根本的見直しと迅速な対応のための組織・戦略を練り直したのです。

当時からさかのぼること20年余りの間に、新たなウイルス感染症が30以上、細菌・寄生虫疾患が10以上登場していました。しかし、これらを制御しうるワクチン開発は遅々としており、抗生物質も耐性菌(たいせいきん)(薬が効かない菌)の出現という問題の前に、その開発が停滞状態に入っていました。

それらの新たな感染症の出現に加えて、旧来からあるマラリア、結核(けっかく)、狂犬病(きょうけんびょう)、黄熱(おうねつ)、インフルエンザなどに対しても、十分に対応できているとはいいがたい状況にありました。また、世界のそれほど豊かではない医学研究費の流れが、がんを主として、その他神経疾患などに向けられ、公衆衛生上重要な感染症対策にはほとんど向けられていない、あるいはごく限られた微々たる程度にすぎなかったのです。

1970年代後半〜80年代初めにかけて、世界の医学研究者や行政担当者の「感染症の時代は終わった」という大合唱が、極めて間違った状況判断に浸っていることへの重大な警告が、この教書によって発せられたのです。

このCDCを中心とする極めて積極的な取り組みは見事に奏効し、少なくともG7(主要先進国)およびその周辺国を動かし、その後の重要疾患の出現に対して世界中にネットワーク(研究、行政対応)を構築し、素早く対応する素地をつくったといえます。

新興・再興感染症の主なものは以下のとおりです。

・ウイルス肝炎(A、E、B、C型)

・ヒトレトロウイルス感染症(ヒト後天性免疫不全/エイズ、成人T細胞白血病など)

・ウイルス出血熱(エボラ出血熱など)

・ロタ、ノロウイルスなどによる下痢症

・腎症候性出血熱とハンタウイルス肺症候群

・伝染性紅斑(パルボウイルス)や突発性発疹(ヒトヘルペスウイルス6、7)などの小児発疹性疾患など

なかでも世界的広がりをみせているエイズは、アフリカの多くの国々の人口を数年後には20〜30%減少させるとも推計されています。

      情報提供元 : (C)株式会社 法研 執筆者一覧
      掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。