病気事典[家庭の医学]

せんてんせいあでのしんであみなーぜ(えーでぃーえー)けっそんしょう

先天性アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症

先天性アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症について解説します。

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どんな病気か

アデノシンデアミナーゼは、アデノシン、デオキシアデノシンをイノシン、デオキシイノシンに変換するプリン代謝系酵素のひとつです。この酵素が先天的に欠けていると、血液中の正常にはたらくリンパ球が減少します。

リンパ球とは、細菌やウイルスなどの外敵(抗原(こうげん))から自分の体を守ってくれる血液中の細胞のことです。リンパ球には、抗原に対する抗体(こうたい)を産生するB細胞と、抗原に対し直接はたらきかけるT細胞とがあります。

先天性アデノシンデアミナーゼ欠損症では、B細胞、T細胞の両方を産生することが困難となり、あらゆる微生物に対する抵抗力が低下することにより、感染症が発症しやすくなります(易(い)感染性)。

症状の現れ方

先天性アデノシンデアミナーゼ欠損症では、生後まもなくから著しいリンパ球の減少と低ガンマグロブリン血症が認められ、B細胞とT細胞の重い機能不全により、さまざまな微生物の感染症に見舞われるようになります。

持続した気道感染のために犬吠様(けんばいよう)(犬がほえるような)の咳(せき)がみられたり、消化管の感染による難治性の下痢がみられたり、頑固な鵞口瘡(がこうそう)が存在したりします。カリニ肺炎サイトメガロ肺炎などの肺炎もみられます。また、発育も障害されます。

この病気は、症状の重症度から分類することができます。

新生児期から乳児期に発症し、急速に致死的となる乳児期発症の重症複合免疫不全症型と、新生児期から乳児期に抗体産生能を残し、進行性に発症する幼児期発症型、そして、5~8歳までは診断されないことが多い小児後期発症あるいは成人発症型の3つの型の存在が知られています。

検査と診断

生後まもなくから、気道感染や消化管の感染による下痢症状などの、さまざまな微生物に対する易感染性が認められ、血液中のB細胞とT細胞が減少していること、さらには各クラスの免疫グロブリン値の低下が認められることから、本症が強く疑われます。患児と両親の赤血球中のアデノシンデアミナーゼ活性を調べることによって、最終診断がなされます。

また、遺伝子診断も可能であり、すでに遺伝子変異が明らかにされている家系では胎児診断も行われています。

乳児期発症型の重症複合免疫不全症では免疫機構が再建されなければ、1歳前後までにほとんどの患児が重症感染症で死に至ります。

治療の方法

治療は、主要組織適合抗原(移植片生着を決定する抗原)の一致する血縁関係者から骨髄(こつずい)を採取し、患者さんに移植する骨髄移植療法が第一選択になります。しかし、患者さんに適合する骨髄提供者が見つからなかったり、提供者が見つかっても拒絶反応による生着率の低下の問題があります。

骨髄移植による治療法が困難な場合、ウシの腸管から抽出したアデノシンデアミナーゼの酵素をポリエチレングリコール処理し、先天性アデノシンデアミナーゼ欠損症の患者さんに補充する、いわゆる酵素補充療法が行われます。

酵素補充療法は治療自体に危険性が少なく、治療効果も期待できます。しかし、治療を開始したら、一生涯治療を続けなければならないこと、免疫力の再建が部分的であることや、治療費が高額であるという点で困難なケースもあります。

1990年に米国で、酵素補充療法を施行していた4歳女児の先天性アデノシンデアミナーゼ欠損症の患者さんに対して、初めての遺伝子治療が行われました。1995年には、日本でも4歳男児に対する遺伝子治療が行われました。

しかし、本症に対する遺伝子治療も、末梢血中の成熟T細胞を遺伝子導入の標的細胞としていることから、少なくとも10回前後の反復治療が必要であることや、酵素補充療法との併用療法が必要であること、さらに効果の持続が限られていると考えられることなど、多くの問題を残しています。

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