病気事典[家庭の医学]

だんせいふにんしょう

男性不妊症

男性不妊症について解説します。

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どんな病気か

結婚して避妊せずに2年間子どもができない場合を、不妊症と呼んでいます。このなかで男性側に原因があるものを男性不妊症といいます。

原因は何か

以下のように分類されます。

(1)造精機能障害(精巣が十分な精子を作り出せない状態)

a.染色体・遺伝子異常

b.精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)

c.停留精巣(ていりゅうせいそう)

d.精巣がん

e.下垂体(かすいたい)、甲状腺(こうじょうせん)疾患

f.抗がん薬や放射線治療によるもの

g.原因不明(最も多い)

(2)精路通過障害(精巣で作られた精子が尿道まで輸送できない状態)

a.精巣上体(せいそうじょうたい)、精管、精嚢腺(せいのうせん)の先天的な異常

b.精巣上体炎

c.逆行性射精

d.精管結紮(けっさつ)術、鼠径(そけい)ヘルニア手術後

e.前立腺、精嚢腺の手術後

(3)精子機能障害

a.抗精子抗体など

精液検査からみた分類

(1)無精液症(精液が出ない状態)

(2)無精子症(精液中に精子が認められない)

(3)乏(ぼう)精子症(精液中の精子の数が少ない)

(4)精子無力症(精子の運動率が低い)

(乏精子症と精子無力症は合併することが多い)

造精機能障害

造精機能障害の多くは先天的です。このなかで精液中にまったく精子がない無精子症は、染色体の異常、たとえば本来はXYの2本の性染色体がXXYと1本多くなってしまったクラインフェルター症候群があります。また、Y染色体の一部分が欠損している場合が10~20%見つかります。

このほか、停留精巣精索静脈瘤、成人になってからの耳下腺炎(じかせんえん)による精巣炎などがあり、片側の精巣の異常でも精子数や運動性が低下する場合もあります。

また、脳下垂体の疾患により精巣を刺激するホルモン(黄体化(おうたいか)ホルモン:LH、卵胞(らんぽう)刺激ホルモン:FSH)が分泌されない場合も不妊症になります。さらに、精巣がんでも不妊症になるため、注意が必要です。白血病悪性リンパ腫などのがんで、放射線や抗がん薬の治療を受けると精子数が低下したり無精子症になったりすることもあります。

精路通過障害

精路通過障害は造精機能障害と比べるとまれです。先天的な精巣上体、精嚢腺、前立腺の欠損あるいは奇形による場合や、精巣上体炎後にみられます。幼少時に鼠径(そけい)ヘルニアの手術を受けた人では手術部位に精管が走行しているため、これがふさがる場合があります。もちろん、精管結紮術(けっさつじゅつ)(パイプカット)後も無精子症になります。

このほか、脳脊髄の障害やインポテンツ、射精障害、極端な早漏(そうろう)や遅漏(ちろう)も不妊の原因になります。

精子機能障害

精子機能障害としては、抗精子抗体などの免疫の異常により、精子の運動性や授精能が低下する場合が知られています。

検査と診断

まず、通常の性交が行えているかどうか、排卵日前後に性交を行っているかどうかの問診が重要です。

次に左右の精巣の有無、大きさ、硬さを調べます。正常な精巣は長径3~4㎝のラグビーボール型です。左の精巣の上方に青黒く軟らかい静脈が透(す)けて見えるのは精索静脈瘤と呼ばれる病気で、不妊症の原因になります。恥骨部(ちこつぶ)から鼠径部にヘルニアの手術創があるかどうかも確認します。

さらに、精液検査を行います。4日~1週間射精せずに、マスターベーションで精液を採取します。健康な男性の場合は、精液の量は2ml以上、精液1㏄あたり7000万から1億個の精子がみられ、そのうち70%以上は活発に運動しています。これに対して、精子の濃度が1㏄あたり2000万個以下や運動率が50%以下では、通常の性生活では妊娠が難しいと考えられています。

そのほか、血液中の男性ホルモン、下垂体ホルモンを検査します。

精液中にまったく精子がいない場合やごく少数の精子しかみられない場合は、血液による染色体検査や遺伝子検査、精巣の生検(組織をとって調べる)が必要になります。そのほか、精子の通り道である精巣上体、精管、精嚢腺、前立腺、尿道の超音波検査や造影検査を行います。

治療の方法

造精機能障害の治療

造精機能障害の人のなかで、精子濃度や運動率がやや低下している場合は、ビタミン剤、漢方薬を使うことが多いのですが、一部の人を除いてその効果は不明です。

また、下垂体ホルモンや男性ホルモンが欠乏、あるいは低下している人では、下垂体ホルモン(LHおよびFSH)や男性ホルモンを補充することにより、劇的に改善することがあります。

精索静脈瘤の場合は、手術をすることで精液所見が改善することがあります。

精路通過障害の治療

精路通過障害の人の場合は、手術することで妊娠が得られることがあります。たとえば、ふさがっている精巣上体や精管をつなぎ直す手術などがあります。

逆行性射精とは、勃起して射精はするのですが、精液が膀胱に逆流するため尿道から射出されない病気です。このため、射精感はあるものの、精液がまったく出ないか、非常に少なくなります。時として、無精子症と間違えられることがあるので、注意が必要です。治療は、射精後の尿から精子を回収し、人工受精などを行います。

人工授精と体外受精

以上の治療で効果がなければ人工授精が行われます。これは、精液検査と同じようにマスターベーションで精液を採取し、軟らかい針で女性の子宮に注入する方法です。精子の濃度や運動率が低下している人では成功率は低いのですが、負担の少ない治療法なので一度は行ってみるべきです。

しかし、5~6回人工授精を行っても子どもができない人や、精子の濃度や運動率が非常に低い人には体外受精がすすめられます。これは、細い針を使って女性の卵巣から卵子を取り出し、マスターベーションで得られた精子を試験管のなかでいっしょに培養して受精させたのちに、女性の子宮内にもどす方法です。

精子の数や運動率がさらに低い人では、試験管内で注射針を使って精子を卵子内に注入して受精させる卵細胞内精子注入法(ICSI)が行われます。

精液中に精子がほとんど見つけられない高度の乏精子症や無精子症では、精巣や精巣上体、精管を切開して精子を採取し、体外受精を行うこともできるようになりました。この治療法により、染色体に異常のある無精子症の人でも妊娠が得られるようになってきました。

現在のところ、体外受精で生まれた子どもに異常が多いとの報告はありませんが、成人になった時の妊孕(にんよう)性(妊娠できるかどうか)、あるいは発がん性などの安全性は不明なので、十分な説明を受けて納得したうえで、治療を受けてください。

インポテンツや腟内射精障害の人では、マスターベーションにより得られた精子で人工授精することもできます。これでも精子が採取できない人は、精巣上体や精巣から精子を採取して人工授精あるいは体外受精を行います。

脊髄損傷によるインポテンツや射精障害では、陰茎をバイブレーターで刺激する方法や肛門から電極を挿入して電気刺激する方法が効果をあげています。

病気に気づいたらどうする

結婚して、通常の性生活で2年たっても子どもができなければ、男性も精液検査を受ける必要があります。不妊症を扱っている産婦人科ならば精液検査は可能です。

この結果、精子の数や運動率が基準以下の場合は、専門の泌尿器科を受診してみてください。

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