病気事典[家庭の医学]
ちょくちょうだつ
直腸脱
直腸脱について解説します。
執筆者:
四日市社会保険病院副院長・外科大腸肛門病・IBDセンター長/三重大学医学部臨床教授 梅枝 覚
どんな病気か
肛門から、直腸粘膜および直腸壁全層が脱出する病気で、痔核(じかく)、粘膜脱(ねんまくだつ)といった粘膜の一部だけの脱出とは異なります。ひどいものでは、直腸が反転して直腸壁全層が10~20㎝ほど肛門から飛び出します。
原因は何か
脆弱(ぜいじゃく)な骨盤底と直腸の固定の異常が原因であり、便秘、排便時のいきみが誘因になることがあります。小児や若い成人でもみられますが、とくに高齢の女性に多くみられます。
症状の現れ方
排便時の直腸粘膜の脱出が主な症状ですが、さらに進行すると、歩行時にも脱出が認められ、肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の障害を伴うようになります。また、便秘症などの排便障害や出血などを来すようになります。
検査と診断
診断は直腸脱を診て確認できれば容易ですが、脱出していない場合は、腹圧をかけると脱出を確認できます。詳しくは、原因になる脆弱な骨盤底と直腸の固定の異常の有無を調べる必要があります。
専門的には、腹圧時の会陰下垂症(えいんかすいしょう)・肛門挙筋(きょきん)・恥骨(ちこつ)直腸筋・外肛門括約筋の随意収縮力の低下や直腸肛門角の開大などを確認するために、肛門内圧検査や排便造影検査・怒責診断・骨盤MRI検査が必要になります。それにより治療法が決定されます。
医学的には、アルテマイヤー分類(Ⅰ型:直腸粘膜の脱出、Ⅱ型:腸重積(ちょうじゅうせき)、Ⅲ型:完全直腸脱)、タトルの分類(Ⅰ度:直腸粘膜脱、Ⅱ度:直腸全層の脱出、Ⅲ度:腸重積)などがあり、その程度により治療法も違ってきます。
鑑別診断としては、直腸がんの鑑別に大腸内視鏡検査が必要です。
治療の方法
小児の直腸脱は、なるべく手術せずに治療すべきです。便秘の予防(緩下剤(かんげざい)の調整)と排便時に腹圧をかけさせないことが重要です。
成人では、外科的治療法が最もよいと思われます。開腹して直腸後方および側方を遊離して固定する直腸つりあげ固定術が有効です。いろいろな方法がありますが、どれも約90%は有効です。
手術は高齢者でも比較的安全ですが、麻酔による危険性の高い高齢者に対しては、有効率は下がりますが、腰椎(ようつい)麻酔で可能な会陰式(えいんしき)の手術方法もあります。会陰側から粘膜を切除するデローメ手術や、粘膜をつまんでしばる三輪ガント手術、肛門出口を狭くするティールッシュ手術などが一般的です。
さらに、これでも軽快しない場合は、肛門から器具を入れて直腸を切断するアルテマイヤー手術や、開腹して直腸が脱出しないように骨盤内に固定するさまざまな直腸つりあげ固定手術が考えられています。
しかし、再発率の少ない手術ほど生体を傷つけることが多く、手術による危険性が増すことになり、年齢とQOL(生活の質)にあった手術を選択するため、十分な検討が必要です。
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