病気事典[家庭の医学]

びまんせいかんしつせいはいえん、とくはつせいかんしつせいはいえん

びまん性間質性肺炎、特発性間質性肺炎

びまん性間質性肺炎、特発性間質性肺炎について解説します。

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どんな病気か

(1)間質性肺炎

さまざまな原因により生じる、間質を主とする疾患の総称です。間質性肺炎と対比して使われる呼び名として、細菌性肺炎を代表とする肺胞腔内(はいほうくうない)を主とする肺胞腔内性肺炎があります。

しかし、同じ疾患でも、時期により間質性肺炎を示したり、また肺胞腔内性肺炎を示したりすることもよくあります。また、最近では高分解能CTなどで検査することが多くなり、より細かな病変や構造が見えるようになったこと、さらに診断の進歩など、いくつかの要因により間質性肺炎という言葉が曖昧(あいまい)に使われることもあり、注意が必要です。

びまん性という言葉は、“広い範囲”を意味しています。びまん性間質性肺炎とは、間質性肺炎が広い範囲にみられる病気の総称(表12)で、多くの疾患が含まれます。

(2)特発性間質性肺炎

特発性とは原因不明という意味です。つまり、特発性間質性肺炎は原因不明のびまん性間質性肺炎全体を指すものです。

病理組織学的な名称であるUIP、DIP、RB‐ILD、NSIP、LIP、DAD、COP、BOOPなど英語の略字で表現されることの多い疾患が含まれます。このなかに、特定疾患(難病)指定されている特発性肺線維症(とくはつせいはいせんいしょう)が含まれています。しかし、特発性間質性肺炎に含まれる疾患の多くは、その位置づけ、疾患としての意味などが、まだ確立しているとはいいにくいものです。

以上のことから、本項では他の項に記載されているびまん性間質性肺炎を示す疾患は省いて、特発性間質性肺炎のなかでも、特定疾患(難病)に指定されている特発性肺線維症を中心に述べます。

原因は何か

前述したようにびまん性間質性肺炎には原因不明のもの、原因がわからなくても疾患として確立しているもの、さらには原因のわかっているびまん性間質性肺炎など、さまざまな種類の病気が含まれています。

代表的なものには、表12に示したように原因不明の特発性肺線維症、サルコイドーシス関節リウマチなどの膠原病(こうげんびょう)、過敏性(かびんせい)肺炎じん肺薬剤性(やくざいせい)肺炎マイコプラズマ肺炎クラミジア・ニューモニエ肺炎ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス肺炎などの感染症などがあります。

症状の現れ方

特発性肺線維症では、慢性的に肺の線維化が進行します。中高年以降に労作時(ろうさじ)呼吸困難・乾いた咳(せき)で発症し、ゆっくり進行します。症状が現れたあと、平均4~5年で呼吸不全が現れたり、死亡に至る頻度が高くなります。

かぜ、肺炎などの感染症を契機に、急性に発熱、呼吸困難の悪化(急性増悪(ぞうあく))を来し、数日から1カ月程度の短期間に悪化することもあります。

また肺がんを合併することも知られていて、発生率は10~30%に達します。本症に合併する肺がんは男性の喫煙者に多く、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、小細胞がんが高率で、発生部位は下葉(かよう)に多く、さらに重複がん(原発性のがんが複数存在する)の発生が多い傾向にあります。

検査と診断

びまん性炎症性肺疾患の診断の基本は問診、身体所見から肺疾患を疑い、胸部X線を撮影して、びまん性の陰影を認めることから始まります。そして、その画像から考えられる疾患に対する詳細な問診、たとえば経過、自覚症状、患者さんの背景(基礎疾患、服薬など)、さらに多臓器に関する検査とともに、一般検査として血液・尿検査などを行います。

これらを総合した結果、ある程度考えられる疾患を絞り込み、さらに、その疾患に対する特殊な血液検査を行い、診断することになります。

とくに、特発性間質性肺炎を診断するには、粉塵(ふんじん)の吸入(じん肺の診断)、ペットの飼育(過敏性肺炎オウム病など)、薬剤の服用歴(薬剤性肺炎の診断)、筋肉痛・関節痛など膠原病の症状などの有無に注意しながら鑑別診断を行います。また、急性に増悪する場合には感染症との区別が重要になります。

一方、障害を受けた肺の呼吸機能を調べるために動脈血ガス分析、経皮的酸素飽和度を調べ、必要であれば呼吸機能検査を行います。6分間の歩行後に経皮的酸素飽和度、症状をみる検査も行われます。また、胸部X線写真でみられた病変をより詳しく調べるために高分解能CT(HRCT)を行い、必要であれば気管支鏡を使った細胞診、病理組織学的検査、気管支肺胞洗浄液の分析を行います。胸腔鏡、開胸肺生検も重要な情報を提供してくれます。

診断はひとつの項目で十分といえるものはなく、問診や身体所見、さらに各種血液検査、呼吸機能検査、病理検査などを総合して確定診断を行います。

主な血液検査としては、赤血球沈降速度、炎症をみるCRP、肺炎の線維化の程度と相関する血清KL‐6、SP‐D、SP‐AとLDHがあります。さらに、膠原病などの検査として自己抗体、サルコイドーシスの検査としてACE、血管炎の検査としてANCA、アレルギーの検査として好酸球(こうさんきゅう)、IgE、また過敏性肺炎の検査として原因となる抗原などがあります。

しかし、これらの検査が陽性であれば、この疾患に間違いないというわけではなく、他の疾患でも陽性になることもあります。診断は総合的になされます。

治療の方法

特発性間質性肺炎は原因不明であり、さらに現在のところ、特効薬はありません。病気の進行をできるだけ遅くするようにしたり、症状をできるだけ少なくする治療が中心になります。呼吸状態が悪くなく、安定していれば原則的には無治療で様子をみることが多いのが現状です。

治療する場合は、プレドニゾロンなどのステロイド薬などが中心になります。また、アザチオプリン(イムラン)、シクロホスファミド(エンドキサン)などの免疫抑制薬なども追加投与されることがあります。さらに、肺の線維化を抑える効果が期待できる抗線維化剤のピルフェニドン(ピレスパ)が発売されました。この薬剤は、肺の線維化を抑制するのが目的のため、病気そのものは治せませんが、肺機能の悪化を遅らせることができる場合があります。

これらの薬剤にはさまざまな副作用があるので、注意して使い、最低限の薬剤量にできるだけゆっくり減量します。また、最初から少量を投与することもあります。

急性呼吸不全、急性増悪を示す場合には、メチルプレドニゾロンが投与されることもあります。また、感染症の合併がある場合には抗菌薬の投与も行われます。

進行すると低酸素血症が必ず起こるので、酸素(在宅酸素療法を含む)が投与されます。安静時には低酸素でなくても、歩行時に低酸素が生じることはめずらしくありません。その場合は酸素の投与を行うと、労作時(歩いたり、階段を上ったりした時)の呼吸困難などの軽減につながることがあります。合併することのある心不全の治療が行われることもあります。

そのほかにもいくつかの方法が検討されていますが、現在のところ特効薬はありません。たとえば、N‐アセシルシステインの吸入などが行われることがありますが、効果はまだ明らかにされていません。肺移植が行われることもあります。

予後

治療を行っても、発症5年めの生存率は約36%、10年めは約20%といわれ、予後のよくない疾患です。

死因は呼吸不全肺性心肺がんが主なものです。肺性心とは、肺疾患が原因で肺動脈末梢の抵抗が増大することで肺高血圧になり、右心室の肥大、拡張を起こす状態をいいます。

病気に気づいたらどうする

びまん性間質性肺炎には多くの疾患が含まれ、胸部X線検査だけで診断できないことが多いので、本症が疑われる場合は、まず受診した医師に専門医を受診する必要があるかどうかを相談します。

受診する科は一般に内科、もしくは呼吸器内科が中心になります。

生活面では、とくに感染症に注意が必要です。また、治療のためにステロイド薬の投与を受けている場合は、感染症、胃潰瘍糖尿病骨粗鬆症(こつそしょうしょう)など、いくつかの合併症の発生頻度が高くなるので注意が必要です。

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