病気事典[家庭の医学]
おうかくまくへるにあ
横隔膜ヘルニア<子どもの病気>
横隔膜ヘルニア<子どもの病気>について解説します。
執筆者:
獨協医科大学第一外科教授
藤原利男
どんな病気か
横隔膜ヘルニアには、先天性のものと後天性のものがあります。
先天性のものにはさらに、ボックダレック孔(こう)ヘルニア(後外側裂孔(こうがいそくれっこう)ヘルニア)、傍胸骨孔(ぼうきょうこつこう)ヘルニア、食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニアの3種類があります。以下、それぞれについて解説します。
ボックダレック孔(こう)ヘルニア
原因は何か
通常は、胎生8~9週ころまでに横隔膜が形成されますが、この時期までに横隔膜の後外側孔(ボックダレック孔:解剖学者の名前)が閉じられないと、腸管が胸腔内に陥入し、本症が起こります。
先天性横隔膜ヘルニアの3つの疾患のなかではボックダレック孔ヘルニアの発症が最も多く、出生児2000~3000人に1人と報告されています。
症状の現れ方
症状の程度は発症の時期により異なります。多くの場合は出生直後から重症の呼吸不全、高度のチアノーゼを伴った多呼吸が認められます。胸部は樽状に膨隆(ぼうりゅう)し、逆に腹部は陥凹(かんおう)しています。呼吸障害が強く、出生直後から人工呼吸管理が必要になります。
特殊な例としては、出生直後には呼吸器症状は示さず、年長になってから、かぜをひいて強い咳(せき)をした時や腹部を打撲した時に発症する場合があります(遅発型)。
検査と診断
患側の胸部で腸雑音を聴診できることがあります。胸部単純X線検査で確定診断ができます。現在は出生前に胎児超音波検査で発見できる場合が多くなりました。出生前に診断がついた場合は周産期センターに妊婦を搬送し、新生児科医、小児外科医の立ち会いのもとに分娩し、出生後ただちに治療を開始します。
治療の方法
呼吸と血液、心臓の状態が良く、動脈血中酸素飽和度が100%以上あれば、開腹して横隔膜形成術を行います。しかし呼吸不全と高度のチアノーゼが認められ、動脈血中酸素飽和度が低下している場合は、呼吸循環動態を安定させてから横隔膜形成術を行います(横隔膜の欠損が大きい場合は人工膜を使用)。
呼吸循環動態を改善させるために高頻度換気装置、また一酸化窒素(ちっそ)(NO)ガス(肺胞(はいほう)血管拡張作用がある)を使用し、さらには人工肺(ECMO)装置を数日間使用して動脈血中酸素飽和度を改善し、呼吸循環動態を安定させてから横隔膜形成術を行います。
予後
出生後24時間以内の発症例は予後が悪く、救命率は約50%程度と報告されています。年長児で発症する遅発型ボックダレック孔ヘルニアでは100%救命されます。
傍胸骨孔(ぼうきょうこつこう)ヘルニア
原因は何か
横隔膜が胸骨に付着する部位が弱い場合に起こります。縦隔(じゅうかく)は腹腔よりも圧力が低いので、横隔膜が弱いと腹圧によって腹腔内臓器が胸骨後部に脱出します。胸骨左右に発症し、右側をモルガニー孔ヘルニア、左側をラレイ孔ヘルニアともいいます。
症状の現れ方
通常とくに症状はなく、かぜで医療機関を受診し、胸部単純X線検査で偶然発見されることが多いようです。
検査と診断
胸部X線検査、CT検査、バリウム注腸などの消化管造影検査で確定診断ができます。
治療の方法
自然には治りません。消化管閉塞を起こすことは極めて少ないのですが、発見次第開腹し、横隔膜の弱い部位を縫縮(ほうしゅく)補強します。最近は腹腔鏡手術も行われています。予後は良好です。
食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア
どんな病気か
食道が横隔膜を貫通する部位に発症します。全年齢を通して発症し、さまざまな症状があります。
原因は何か
食道は脊椎(せきつい)に沿って下降します。この部位で食道を取り囲む横隔膜組織がもろいと、腹腔の内圧により横隔膜が後縦隔(こうじゅうかく)方向に陥凹し、腹部食道と胃の上部が陥入して発症します。
症状の現れ方
胸やけ(食道炎)、貧血(食道炎から潰瘍ができ出血する)、嘔吐、栄養障害、発育障害(胃が陥入しているので、十分な経口栄養摂取ができない)などを示します。
検査と診断
上部消化管造影検査、内視鏡検査で診断が可能です。噴門(ふんもん)機能の低下を伴うことがあるので、噴門内圧検査を行います。
治療の方法
開腹して腹部食道、胃を腹腔内に引き下ろし、食道裂孔部を縫縮(ほうしゅく)補強します。同時に逆流防止術を行います。腹腔鏡による手術も行われています。予後は良好です。
後天性横隔膜(こうてんせいおうかくまく)ヘルニア
原因は何か
多くは交通事故などによる外傷性のものです。鈍的(どんてき)腹部打撲(だぼく)(鋭利なものでなく、石や柱などによる腹部打撲)、転落などが原因で発症します。
症状の現れ方
胸部の痛み、呼吸困難、チアノーゼ(皮膚や粘膜が紫色になること)が認められます。患側で胸部呼吸音の減弱、胸腔内で腸雑音を聴診することがあります。
検査と診断
胸部単純X線検査、CT検査で診断が可能です。
治療の方法
緊急手術で横隔膜の破裂部位を縫合します。この時、腸管などの他臓器損傷に注意します。予後は合併症にもよりますが、多くの場合は良好です。
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